ペットとの共存をさらに掘り下げ、ペットによるペットのための家作りをゆるく、まじめに綴ります。
家具デザイナー/建築家
北田たくみ -Takumi Kitada-
1958年、岩手県盛岡市生まれ。
通産省の仙台局、本省勤務を退省後、「ゴルゴ13」等の劇画脚本家、地質調査、測量、鳶、ミュージシャン、ライブハウスオーナーなどの職を経験。
1990年に、株式会社のるすくを設立し、広葉樹の無垢材を使用した家具のデザインに従事。現在は住居の建築家としても活躍中。
株式会社のるすく
http://www.norsk.jp/
半袖と長袖を使い分ける日々が続いている。
かつて、これほど不規則な気温差を体感したことがあっただろうか?
いつものように桜の花とともに訪れたはずの春。
ところが今年はその後に続く夏に向けてなかなか心と身体の準備をさせてもらえない。
このままではある日突然訪れるであろう猛暑に身体が対応できずおしつぶされてしまいそうだ。
これは常に毛皮をまとっている犬達にとって、人よりもむしろ深刻な問題になりかねない。
何とかしなければ・・・。
このところ、様々なハウスメーカーからも犬と共に暮らす為の空間提案がされるようになった。
ほとんど内容は類似しているが、プロフェッショナルからの的確なアドバイスや便利な設備、
新しく開発された消臭、調湿効果のある壁紙や傷や汚れに強く滑り止め対策のなされた床の
素材等の情報を知る事ができる。
家を買わないまでもパンフレットに目を通しておくとためになるだろう。
一つ残念な点は機能面が優先され、人の暮らしや感覚に対しての素材の質感が乏しく、
選択を躊躇してしまうものが多いことだ。
打開策としては、決定する前に現物を目で見てそして触れること。
特に壁や床のように面積を必要とするアイテムは、空間バランスに大きな影響を及ぼすので
美的センスも重要な要素となる。
カタログからセレクトするだけで納得のいく空間に近づけるのはもっと種類が
豊富にならないと難しい。
急増したペット空間に世の中が対応しきれていない今現在。
まだまだ設計段階でのアイデアが必要とされるだろう。
散歩の時以外はほとんど家で生活する犬達にとって、
人の不在時はどんな環境におかれているのだろう?
密閉した空気をエアコンで温度調整しているような住まいは多い。
例えば真夏の外気温30度~40度。
もし、何かの理由でブレーカーが上がり空調がストップしてしまったら・・・。
誰もいない部屋の中でその毛皮を脱ぐことも出来ず、空気の流れもない。上昇する室温。
断熱された家の中では大事には至らないかもしれないが、無理矢理がまん大会に出場させられる犬達のストレスは計り知れない。
犬の目線で考える。急な階段はスキーの初心者が上級コースの急斜面を滑るはめになった恐怖。
ツルツルの床は初めてスケート靴を履いてリンクに立った時の気分。
結果として普段使うはずのない筋肉を酷使して体を痛めてしまう。
何故か2つとも冬のスポーツに例えてしまったが、
日常の中にそのようなストレスが絶えず存在してしまう犬にとっての生活空間を、
人が改善してあげようとする行為は犬と暮らす以上「義務」と言ってもいいのではないだろうか。
そもそも人は不満を自力で解消することが出来る。しかし犬は人と共に生きる動物だ。
人の愛や気配りがなければ長生きできない。
そんな犬と共に暮らす責任を電気の力を借りずとも最低限犬達が自力で耐えられるだけの
空間はどうあるべきかから始めたい。
このエッセイを書き始めて3話目。偶然にもこれから手がけるマンションリフォームと一軒家の設計が2組とも犬と一緒に住むプランとなった。
ついては現実的な事例を通して「わんルーム」の具体的提案をみなさんと一緒に考えていこうと思う。
掲載日:2010年5月31日