シンプル、ディテール、素材感にこだわりながら、心地よい空間づくりをモットーとする建築家の阿久津雄一郎さんからのメッセージをお届けするシリーズ2回目。
私が今までに設計をした戸建て住宅の中でも、とりわけ厳しい条件でありながら、とても好きな家に仕上がったのが品川区のO邸です。
施主様は、30代のクリエイターご夫婦。複数の不動産を見られた後、14坪くらいの土地の資料を手にご相談を受けました。
斜線規制がある中で、ボリュームが思うようにとれないと思い、その旨を伝えましたが、とても気に入った不動産らしく、購入され、私がお手伝いすることになりました。
ご提案したプランは5.2×5.2mの3階建て。
車を格納できるガレージが欲しいとのことでしたので、1階はガレージとトイレ、バスなどの水回り、2階はLDK、3階は主寝室と斜線規制で天井が斜めになる空間には、客間、書斎、納戸や、お子様が生まれたら子ども部屋としても使える1室を配しました。
階段は、店舗のエスカレーターにあるような、昇ったらそのフロアを横切り、また同じ向きに昇る鉄砲階段という設計にし、扉を付けず、空間がつながる感じに工夫をしました。
LDKの一面には、パソコンができるライティングデスク付きのトールキャビネットを設置し、収納スペースを確保。
ダイニングテーブルは、限られたスペースに最適なサイズの品がなかなかなかったので、余っていた板で大工さんにつくってもらい、連続性のあるデザインでテレビ台、作業台、マガジンラック、ゴミ箱なども造作しました。
小さくても広く使え、心にもゆとりが感じられる空間づくりをめざし、O様にはとても喜んでいただけました。そのうえ、奥様の職場の方までが心地よい家だからと気に入り、何回も遊びに来ているという話を聞いて、とても嬉しくなりました。
▲制作実績:軽井沢K様邸
▲制作実績:軽井沢K様邸
▲制作実績:左/世田谷区Y様邸、右/大田区O様低 鉄砲階段
一方、世田谷区のY邸は、仕事をよく一緒にしている建設会社の社長様宅で、事務所兼住宅に、ご夫婦とお子様一人、奥様のご両親とが二世帯で住む家族構成。
必要な部屋が明確だったので、何階にどの部屋を配するのがベストかというパズルのような感覚で設計をさせていただきました。
最終的に、1階はガレージと事務所と浴室、2階はLDKとご両親の部屋とトイレ、3階はご夫婦の部屋とお二人目のお子様が生まれたら2室に仕切れる子ども部屋を配しました。
また、階段室をフロアごとに位置を変えるなどして、O邸とは違うプランニングで空間の使い方や採光を取る工夫もしました。Y様にも、とても喜んでいただけ、モデルハウスとしても活用してくださっています。
階段は、平面ではイメージしにくいエリアですが、使いにくい、昇りにくい、他の空間とのバランスが悪いというのは、私としてはNG。いつも家の中の小宇宙のような空間と認識してプランニングをしています。
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次号では、本企画初のマンションリノベーションのお話をお伺いします。
掲載日:2010年3月31日