店舗デザインの経験を活かし、家の内側から発想し、細部の快適性にまでこだわった家づくりを得意とされる空間デザイナーの河崎和浩先生からのメッセージをお届けするシリーズ第2弾。
前号でも少し触れた港区青山のA邸を、今回は、その他の細部のプランニングも見ていくことにしましょう。
私は、店舗デザインからスタートしたのですが、初めて個人の施主様とお話をして建てた家が、港区青山のA様宅です。
ご家族は、IT系企業をリタイアし、のんびり暮らしたいというご主人と、奥様、当時3歳の息子さんの3人。ご要望の1つが、自分がITで培ったノウハウを無料で教えられる教室を、いずれ開きたいということでした。そのために掘っておいた地下1階で、竣工1年後くらいに教室を開かれたようです。
1階には、大型車が入るガレージとゴルフ用品などが入る収納を設置。階段を上がった2階が玄関です。ドアを開けると目線は正面の壁にいくのですが、日本の玄関のような設えにはせずに、サイドに高さ約120センチの、中が下駄箱になったカウンターを設置。
その先は、来客が多く、パーティーをよく開くと聞いていたので、階段とトイレを除いた約20坪のフロアを全部使い、リビングダイニングとしました。
キッチンには、レンジはカウンター下に収め、冷蔵庫は扉の中に配置し、また、締めたときのバンという音を吸い込む働きもあるパネルをつけるなど、来客に見せない工夫もしています。
▲六本木ヒルズを望む4階主寝室
2階が社交の場なら、3階のコンセプトはファミリー。子ども部屋のほかに、よく遊びに来られるというご両親が、扉をセットすれば個室として泊まれるように、布団入れや現代風床の間のある和の空間も設けました。同じフロアにバスルームがあるので、来客がない時は、この空間は風呂上がりにゴロッと寝転がれる場所にもなります。南面は、消防隊の侵入口にしなければならないため、クリアガラスとなりましたが、西面は、障子風のガラスブロックで和のイメージにしました。
4階には、簡単なリビング、壁のように見える扉を開けると、その扉をモチーフに作った家具を備えた主寝室、さらにトイレとシャワー室も設け、シティホテルのような空間にしました。ベランダからは、六本木ヒルズ、ミッドタウンが見えます。
屋根裏はご主人のホビールーム。1日1冊は本を読むということでしたので、本棚や書庫も設置。その後、趣味のギターも並べたと聞いています。昼間は陽が入りませんが、朝日と夕日がたっぷり注ぐこの部屋で、ご主人は念願でもあったのんびり過ごすことが多いそうです。
我が家も、私も料理を作り、少人数ですが人を招いてパーティーをするのが好きなので、A様とは話をしていて気持ちが通じる部分がありました。アイデアを形にしやすく、A様も細かい工夫をとても喜んでくださいました。これから家を建てる施主様とも、出会いと、会話の中から生まれる感覚を大切にして、プランニングをしていきたいですね。
◇ ◇ ◇
次号では、本企画初の店舗付き住宅のお話を河崎先生からお伺いします。
掲載日:2009年12月29日