建築家・前真吾先生のメッセージをお届けするシリーズ最終章。
今号では、施主様のご要望で、風水をプランに反映したT邸と、特長のある敷地にユニークな家を建てられたI邸の事例を通して、先生が考える「家とは何か?」を語っていただきました。
今回は、特徴のある建築例をご紹介します。
まず、北区のT様ご夫妻は、風水を間取りに取り入れられる方で、お知り合いの著名な風水の先生の意見をプランに反映しました。たとえば、南面には開口部を設けず、部屋は明るくしたいという建築の概念とは逆の新しいご要望です。たまたま南面は隣家が迫っていたので閉じ、その分、北側のバルコニーを室内に取り込んだ計画にし、照明を工夫して部屋を明るくしました。
色に関しては、打ち合わせを重ねながら、1階の趣味の部屋と水まわりは白がベースの床や建具を使って明るいナチュラルモダンに、2階のリビングはご夫妻がお好きなアジアンテイストに、3階の主寝室と趣味の部屋はダーク系でシックにと、フロアごとに変化をつけました。
小型犬を数匹飼われているのですが、2階から3階へ続く階段下には、2階のアジアンテイストのランダムな格子柄に合わせた格子戸の造作ドッグコーナーを設け、2階のフロアやクロスに傷や汚れに強いペット対応のものを使ったのも、この家の特長です。
屋上のルーフバルコニーでは日光浴も愉しんでおります。
▲2階リビング。右側の階段下は造作ドックコーナー
▲2階リビング。右側が北側道路に面したバルコニー
▲1階のフリールーム。
北側の全開口窓側はウッドデッキ
▲3階主寝室。ベット側壁面には間接照明
一方、日野市のI様一家は、仕事でお付き合いのある施工会社の社長様と奥様、小学生の男の子の3人家族。敷地約250坪、高低差約20mで、崖下には湧水もあるという、とても珍しい土地をご購入されました。
家に対するご要望は、ダイニングの椅子に座っている家族やお客様と、キッチンに立つ奥様の目線が同じになるようにしたいという一点でした。いずれは自宅をモデルハウスとして活用したいという考えもお持ちでしたので、H字型の木造2階建てをご提案し、玄関を入った所に、打ち合わせにも使える和室を配置。玄関からリビングまでは、廊下の階段を降りながら招き入れる雰囲気にしました。リビングとダイニング、それらより床を低くしたキッチンを明確に分け、キッチンにいる奥様から目が届く場所に、天井高1.8mのお子様の勉強コーナーも配置。リビング上のトップライトからは、通風と採光が得られます。
リビングの階段を上がると子ども部屋です。お風呂は、2階の廊下に数々の工夫を凝らして、崖下の街並を見下ろしながら入浴できる場所に配置。その廊下から続く主寝室の前を通って、別の階段を降りれば玄関へ。私がいつもご提案しているお子様がぐるぐる回れる家、そしてモデルハウスを見学に来られたお客様とご家族が1階の廊下ですれ違うことなく、玄関から出入りできる家にもなりました。
この2邸に限らず、私は常に住まい手のご要望をとことん受け止め、具現化し、家のどこかに家族全員が帰りたくなる要素を盛り込むようにしています。家が変わると人の心も変わり、その流れで社会も変わる...それくらいの気持ちで家づくりをすることが私たちの役目だと思うからです。皆様も、家づくりの第一歩を、自分が帰りたくなる家をイメージすることから始めてみてはいかがでしょうか?
▲キッチンの左側はお子様の勉強コーナー。その上はリビング
▲目線を合わせた、ダイニングキッチン
▲中2階の天窓があるリビングスペース。
奥側が2階へと繋がる階段
▲テラスから見たLDKへのアプローチ。
右側 が玄関で左側がLDK
掲載日:2009年10月29日